「忌避剤入りの湯飲み茶わんを超えてくるので、狼の声をもう一つ増やすか、超音波害獣撃退器を忌避剤入りの湯のみ茶わんのように2メートルおきに並べるか、電気柵を設置するかという選択に迫られたのですが、イノシシの線的行動が分かっていたので、砂利の先にある泥浴びするところに忌避剤を撒いたら、イノシシはどういう行動を取るのだろうかという疑問を持ちました。」

「なるほど。忌避剤を撒けば、3日間は効いているということでしたね。それで猪はどういう行動に出たのですか」と町会長。

「翌朝見ると忌避剤入りの湯のみ茶わんが幾つかひっくり返っていました。注意深く見ると、ひっくり返っていない湯のみ茶わんも攻撃されていました。」

「猪は『忌避剤なんて何でもないんだ』というところを見せたのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。その日で忌避剤入りの湯のみ茶わんを置いてから1カ月くらいなので、忌避剤が説明書通り1カ月は有効であることが分かりました。」

「そのとき、イノシシは茶ノ木の向こうに来たのですか」と町会長。

「湯のみ茶わんをひっくり返すのは以前にもしたことがあるので、今回もできたのでしょうが、そこで精神的な限界に達したようです。そのまま引き返しています。」

「できる範囲で、イノシシの意地を見せたということですね」と町会長。

「確かにおっしゃる通りです。湯飲み茶わんを元に戻し、超音波害獣撃退器を1台泥浴びするところに向けて設置すると、数日間イノシシの気配がありませんでした。」

「イノシシとしては限界的に頑張って湯のみ茶わんをひっくり返したということですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕にとっては、イノシシが線的な行動を取るという仮説が証明されたという画期的な出来事でした。」

「なるほど。泥浴びするところを少しよけ、湯飲み茶わんのところを超えて茶ノ木の向こう側に行けばいいのに、泥浴びするところに忌避剤が撒かれていて、超音波害獣撃退器がさらに設置してあると、その先に来ようとはしないのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。数日間イノシシの気配がないので、イノシシは去ったと思いました。この戦いは、イノシシにとっては、泥浴びするところを守るのが目的で、ハイゴケのミミズや茶ノ木の裏のミミズを食べるのは、戦いの手段だったのだと思いました。」

「なるほど。ミミズが主食だとすれば、寒くなってミミズが少なくなったときのことを考えて、泥浴びする場所を守るのは当然かもしれませんね」

「泥浴びは体についたダニを落とすためにするというのが定説なのですが、ミミズが少なくなる冬のためにミミズがたくさんいる場所を確保しておくという意味もあるようです。」

「なるほど」と町会長。

「実は、泥浴びをするときに、イノシシが20センチ前後掘るのもミミズの生態と関係していると推定しています。」

2019/12/13

※『第九十話』は、原稿は書いたのですが、アップロードし忘れていました。

2022/10/14